『その夜の出来事』
 愛人である悦子の部屋にやってくる血塗れの龍之介。ここに来る途中にオヤジ狩りにあったという。心当たりもまったくない、突然襲われた恐怖が、じんわりと男の心をむしばんでいく。

 オヤジ狩りのようなものがどうやったら、一番効果的に舞台にのっかるだろうか? と考えた結果です。オヤジを狩るのはどうしてなんだろう? なぜ若者はオヤジを狩るのか? ということをいくら考えても、どんなに腑に落ちる説明や解釈がついたとしても、私はその部分にはあまり興味がないんです。彼らはゲーム感覚で、とか、死を目の当たりにしたことがないから、とか、なにか青少年の犯罪が起きるたびに、誰かが似たようなことを言っていて、そうやって説明するところでなにかしらの解決がなされたような気分になるだけのような気がします。オヤジ狩りという事をやっちゃう奴らがいるんです。なぜやるのか? という疑問はあまり意味がありません。やるんです。とにかくやってしまうんです、奴らは。そして、奴らにやられた時、なにが一番自分が想像できる範囲内で、リアルな状態なんだろうと思うわけです。痛みがどれくらいリアルに伝わるものなのか? 恐かった、と舞台上で力説しても怖さは伝わりません。暴力を受けた時、体の痛みと精神的な痛みが同時ということはありません。その時間のズレがだせると、逆にその両方の痛みが個別に際立つのではないかと思ったのです。